飯嶋和一「星夜航行(上・下)」(新潮社)
三河を二分した内乱の時、父が徳川家に弓を引いたため、逆臣の遺児として農村に逼塞していた沢瀬甚五郎は、祖父より剣や騎馬術、鉄砲術などを叩き込まれていた。 傑出したその才覚は家康家臣の知るところとなり、嫡男、徳川三郎信康の小姓衆に取り立てられた。 その後、信康の切腹に伴い、罪なくして徳川家を追われた沢瀬甚五郎は堺、薩摩、博多、呂宋の地を転々とする。 海外交易の隆盛、秀吉の天下統一の激動の時代の波に飲まれ、やがて朝鮮出兵の暴挙が甚五郎の身にも襲いかかる。
4年に一度くらいしか新刊が出ないけど、重厚感ある歴史ものを書かせたら当代ナンバーワンだと思ってる飯嶋和一。
新潮社の「飯嶋和一にはずれなし!」って宣伝が誇張でもなんでもないのは読んだ人ならわかるはず。
寡作だけど新刊出せば、そのたびにいろんな賞レースにノミネートされて受賞しちゃうし。
今回はハードカバーの上下巻、合計1100ページの大作で相変わらず読み応えありまくりでした。
市井によりそうマニアックな人物にスポットライトを当てていきつつ、その人物を狂言回しに時代を切りとっていく手法は相変わらずお見事。
分厚くても面白くて引き込まれてしまう。
今回は主人公自体はほとんどしられていないけど、時代背景やその他の登場人物は割となじみがあって、とっつきやすくはありました。
ただ上巻の途中から下巻ほぼ全部にかけて秀吉の朝鮮出兵の描写。
主人公よりもむしろその経緯をマクロな視点、ミクロな視点でがっつり書かれていました。
いつもの作者の小説通り、「ほぼ史実でしょ」って思わされるくらいの緻密さ。
そして、戦争のスペクタクル感よりも1人の英雄の野望に翻弄されて不毛な戦いを強いられる人々の苦悩が伺いしれるような物語になっていました。
朝鮮出兵自体が秀吉以外、関連する全ての人にとってむなしいものだったので、全体的に重苦しい雰囲気にならざるをえないですけどね。
それでも、ラストはきれいにまとまっていたし、甚五郎の生き様も爽やかでした。
かといって映画だと描き切れない気もするし。。ってか予算つかないか、このテーマでは(;´Д`)
読む方にもエネルギーはいるけど、素晴らしい作品なのは間違いないと思います。
また何かの賞とるかな。