楽しみにしていたシリーズの続刊を本屋で見つけたので、早速購入。
国内の力を結集することで大国ペルシアを打破した民主政アテネ。 不世出の指導者ペリクレスの手腕により、エーゲ海の盟主として君臨し、その栄光は絶頂をむかえた。 しかし、デマゴーグが煽動するポピュリズムが台頭すると、アテネはスパルタとの不毛きわまる泥沼の戦争へと突き進んでしまうのだった――。 なぜ、かつてできたことができなくなってしまうのか。 なぜ、輝かしい栄光はまたたくまに霧散してしまったのか。 民主主義の本質をえぐりだす歴史大作。
入門編の学術書くらいの中身の濃さがありますが、よどみない筆致で決して難しさはないし、純粋に読み物として面白いというのが相変わらず素晴らしい。
ちょうど歴史家のツキディデスがリアルタイムで生きていた時代なので、彼の著作からの引用も多く、この時代の流れをつかむことができました。
作者が文中で、そのツキディデスについてそれまでの歴史家は「いつ、どこで、何があった」としか記していないものに、ツキディデスは「なぜ」まで言及しているという類のことを書いていましたが、歴史の面白さって本当にこの部分にあるんですよね。
それにしても、この本を通じて政治家としてペリクレスすごさを改めて再認識させられました。
ツキディデスをして「形は民主政体だが、実際はだた一人が支配した時代」と言わしめるだけあるなと思いました。
本文中でも多く引用されてますが、演説のうまさ、弁舌の巧みさは現代でも間違いなく一流の政治家になっていただろうと思わせます。
スパルタ王のアルキモダスがペリクレスがどのような男かを問われたときに
「わたしとペリクレスが大勢の観衆を前にして、体技を競っていたとしましょう。その結果、勝ったのはわたしで、観ていた人々も、勝ったのはわたしということで納得する。
ところが、負けたはずなのにペリクレスは、勝ったのは自分の方だと言い、その理由をあげての主張をし続ける。その結果、何と観衆までが、実際に競技を自分の目で見ていながら、ペリクレスの主張を聴いているうちに、やはり勝ったのはペリクレスだった、と思うようになるのです」
ところが、負けたはずなのにペリクレスは、勝ったのは自分の方だと言い、その理由をあげての主張をし続ける。その結果、何と観衆までが、実際に競技を自分の目で見ていながら、ペリクレスの主張を聴いているうちに、やはり勝ったのはペリクレスだった、と思うようになるのです」
と答えたというくらい。
何より直接民主政のアテネで30年もその立場を維持し続け、繁栄をもたらしたところは魔術師的な政治手腕としか言いようがないですね。
その後に超イケメンで弁舌さわやかで、指揮能力もあるけど、人間的には最低じゃねえかって思えるアルキビアデス(ペリクレスが親代わりだったけど)らが薄っぺらく見えてるくらい。
民主政って本当に有能な人が選べれて、有効な政策をどんどん打っていければ、繁栄するんだろうけど、いきすぎると独裁的になるし、かといってバラバラな意見が乱立すると、誰もリーダーシップとれず、グダグダになるからそのバランスをとるのは本当に難しいですね。
民主政自体はギリシアに始まったけど、いつの時代、どこの国家でも同様の矛盾を抱え込みながら、ギリギリのところで成立してるのは一緒ですからね。
ラストになる次巻はいよいよアレクサンドロスも登場。
年末に出る予定だけど、今から楽しみです。