小川哲「ゲームの王国(上・下)」

なんとか今月も記事を更新(^▽^;)

小川哲「ゲームの王国(上・下)」(早川書房


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サロト・サル――後にポル・ポトと呼ばれたクメール・ルージュ首魁の隠し子とされるソリヤ。

貧村ロベーブレソンに生を享けた、天賦の智性を持つ神童のムイタック。

皮肉な運命と偶然に導かれたふたりは、軍靴と砲声に震える1974年のカンボジア、バタンバンで出会った。

秘密警察、恐怖政治、テロ、強制労働、虐殺――百万人以上の生命を奪ったすべての不条理は、少女と少年を見つめながら進行する……あたかもゲームのように。

おそらくは今年のエンタメ系小説のランキングでは上位にくるであろう力作。

著者がハヤカワのSFコンテストでの受賞後第一作ということですが、SFっぽさはあまりなし。

ちょっと変わった人物造形はあるけど、違和感は感じさせないので、誰でも入り込みやすいと思います。

ガルシア・マルケスの作品のようなマジックリアリズムの雰囲気を感じました。

上巻では1960年代から70年代のカンボジアの陰惨な権力闘争に巻き込まれる人々の描写が中心。

ルールがない国にルールを整備するためには自分がそれを作る側に立つ必要があると高みを目指すソリアと故郷の村ごと過酷な状況に追い込まれながらもその中で自分の理想を追求しようとするムイアック。

この二人の周辺の人物からの描写も含めて、歴史の大きな流れを描いた壮大な群像劇でした。

上巻から下巻で近未来まで一気に時代が飛んで、脳波を測定したゲームの開発をしだしたところから少しずつSF的かつ哲学的な展開になっていってました。

群像劇なのでやや散漫になるところもあるし、ラストはなんか唐突な感じだったので、個人的にはもう少し余韻をもったエンディングにしてほしかったかな。

主人公二人の異次元の天才っぷりをもっと味わいたいと思ってしまいました。

それくらいハマって読めれたってことかもしれないですけどね。

ところどころで挿入されるゲームのルールに関する考察や人間の感情や記憶についての記述も興味深くてよかったです。

上下巻合わせて600ページ以上あっても一気読みできるほど面白かった。

今年はあと3カ月近くありますが、自分の中での年間ベストはほぼ決まり。

文庫落ちを待たずに購入して読む価値はあると思う。