今日は日曜日だけど、朝からお仕事。
ちょっと一段落したので、今は事務所に誰もいないこともあり、読書の書庫でも更新しときます。
上田早夕里「華竜の宮」(早川書房刊 税別2000円)
ホットプルームの活性化による海底隆起で、多くの陸地が水没した25世紀。 未曾有の危機と混乱を乗り越えた人類は、再び繁栄を謳歌していた。 陸上民は残された土地と海上都市で高度な情報社会を維持し、海上民は海洋域で〈魚舟〉と呼ばれる生物船を駆り生活する。 陸の国家連合と海上社会との確執が次第に深まる中、日本政府の外交官・青澄誠司は、アジア海域での政府と海上民との対立を解消すべく、海上民の女性長(オサ)・ツキソメと会談する。 両者はお互いの立場を理解し合うが、政府官僚同士の諍いや各国家連合の思惑が、障壁となってふたりの前に立ち塞がる。 同じ頃、IERA〈国際環境研究連合〉はこの星が再度人類に与える過酷な試練の予兆を掴み、極秘計画を発案した――。
昨年出版された短編集「魚舟・獣舟」の世界をスケールアップした長編作品。
地球に起こる大変動をダイナミックかつ科学的に描写しつつ、極限状態で様々な人々が直面する問題にどう向き合うのかを問いかけてくる、ある意味叙事詩的な小説になっています。
人類や地球の存亡という大きなテーマだけでなく、現代を彷彿させるような領土や環境、人種差別の問題や、コンピュータとの共生や遺伝子改変などの近未来的なテーマも織り込んでいて、それがちゃんとおさまっているのはスゴイ。
一見するとファンタジーっぽく見えがちな世界観だけど、それを成立させるためのもっともらしい科学的根拠も示されているので、読者としても違和感なく入っていけます。
欲望むき出しの国家間のエゴにも屈せず、海上民と陸上民の共栄を目指そうとする外交官・青澄のストイックさがカッコよすぎ。
やっぱニッチもサッチもいかなくなった状況でこそ、人間の生き方とか本質的な部分が現れてくるもんですからね。
こういうときに信念を貫ける人間って男前だと思います。
終盤では地球が限りなく終末に近づく中、その対処方法をひねり出そうとする科学者や官僚の姿などはちょっとウルウルきちゃいました。
ハッピーエンドかどうかは賛否両論あるでしょうが、一級のエンターテインメントでありながら、「人類にとって『生きる』とはどういうことか?」というところまで描ききってしまった作者には素直に拍手を送りたいです。
今年読んだ国内SFでは1、2を争う出来でした。
ランキングでもきっと上位だと思うし、何かの賞を獲ってしかるべき作品だと思います。
読書ネタは今年これが最後になりそう。
来年はどんな本を読めるかなぁ?
さ、ボチボチ帰ろ。