島田荘司「写楽 閉じた国の幻」

昨日はゴルフに行っちゃったから、今日は午前中はうちでお風呂掃除やトイレ掃除。

昼からちょっと打ちっぱなしに行って、先ほど帰宅。

あとは明日早朝のワールドカップ決勝にそなえて、のんびり過ごそうと思いますが、またちょっと気になる本を読んだので、読書の書庫でも更新しておきます。


島田荘司写楽 閉じた国の幻」(新潮社 税別2500円)


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浮世絵研究家・佐藤が入手した一枚の肉筆画。

大胆なデフォルメ、奇妙な文字。

まさかこれは?!

息子の事故死により私生活もがけっぷちの佐藤は、研究者生命を賭け、写楽に挑む。

錯綜する諸説、不可解な沈黙、謎の言葉「命須照」。

古い墓石、見過ごされた日記――。

史実の点と線をつなぎ浮上する意想外の「犯人」とは?

昨年まで週刊新潮に連載されてた島田荘司の新作歴史ミステリー。

江戸時代、10ヶ月だけ活躍して忽然と消えた浮世絵師・東洲斎写楽の謎について、体裁こそ一応小説っぽくなってますが、主人公が推論をたてていくくだりはほとんどノンフィクションとして作者の持論が展開されています。

20年間あたためていたというだけあって、今までの島田荘司の作品の中でもかなりの力作。

その結論はインパクトあるし、かつ、ある程度納得できるものでした。

もちろん自分には浮世絵とか近世日本美術史の知識なんてほとんどないから、お詳しい方だとまた違った感想にはなると思いますけどね。

特にこの作品の中で写楽が歌舞伎であまり重要でないな役者や場面を描いていることに着目して、「写楽は実は歌舞伎についてあまり知識がない人間だったのでは?」というくだりは今までの学説にないものらしく、素人ながら面白いと感じました。

歴史学者はばっちりと史料の裏づけがあるところでしか学説を展開できないのに対し、小説家の書く歴史ミステリーの場合はそのへん自由度があって、論理をメインに仮説を立てやすい分、学者には届かない説を展開できるんですよね。

そして、あるいはその方がより真実に近づいている可能性もあるんだと思います。

もちろん、この作品の場合は学者レベルとまではいかないまでも、作者なりにかなりいろんな史料を読み込んでますけどね。

残念だったのは作者があとがきにも書いているように、あまりにも枚数が多くなりすぎて、小説としては特に現代のパートのところがかなりおざなりな終わり方になってしまい、未解決の問題がいくつか残ったままになってしまったこと。

その現代パートで主人公をあらゆる面でたすける女性教授のキャラクターの存在もミステリアスなままだったし。

作者自身もそのへんはもちろん理解しているけど、今のままでも700ページ近い大作で値段も税別で2500円しますからね。

これ以上、本の定価をあげることができなかったんだそうです。

あと、写楽の画風に変化のあった第2期以降のことについての説明もなかったのもすごく惜しいと思いました。

というわけで、至らない点も多々ある作品ですがが、写楽の謎についてそれを十分補うだけの論理の展開の面白さはあります。

読んでて、「これが真実じゃないか?」って思わされてしまうし、歴史ミステリーとしては読み手にこういう感想を抱かせることができているということ一番重要な点ですからね。

この本を読んだ専門家の感想を是非きいてみたいと思いました。

まだまだ作者自身書き足りないところもいっぱいあるようだし、消化不良の部分もあるので、将来文庫化するときは、そのあたりを大幅に加筆して出してくれたりしないかなぁ。

何冊に分けて出版されてもいいから。

浮世絵の知識とかなくても、作品中でいろいろ薀蓄を説明されているうちに、なんとなくイメージできてくるし、興味深く読めますよ。

謎の大きさはもちろん、大胆かつ論理的な結論を兼ね備えているし、今年度の国内ミステリのランキングでも上位にくるんじゃないでしょうか。

これ以上なく骨太で、写楽の謎にまっこうから挑んだミステリー界の重鎮の底力を感じました。