新刊がでたら、とりあえず買ってみる作家。
東野圭吾「虚ろな十字架」(光文社 税別1500円)
フリーライタの浜岡小夜子が、自宅マンション裏の路上で刺殺された。 事情聴取に来た刑事からその事実を聞かされ、元夫の中原道正は愕然とする。 なぜなら、彼ら夫婦の娘・愛美も強盗によって殺害されたという過去があったからだ。 一緒に生活していると楽しかった親子3人での生活が思い出され、それが余計に悲しみと苦しみを増幅するというのが、道正と小夜子が離婚することになった最大の理由であった。 犯人はすぐに判明した。 町村作造という67歳の無職の男だった。 生活に貧窮し、金目当てで及んだ無差別の犯行だと町村作造は自供した。 事実、浜岡小夜子と町村作造との過去の接点は、警察が捜査しても何も見つからなかったが。。。
ミステリーではありますが、この作品のテーマはなんといっても、「死刑制度の是非」でしょう。
犯罪被害者の遺族らにとってはたとえ犯人が死刑になってもおさえることができない感情を持ち続けなければならないという現実をふまえて、登場人物たちに議論させつつ、ミステリーじたてで徐々に事件の真相に迫っていきます。
この問題についてはひとそれぞれ意見は違うでしょうが、作者自体は基本ニュートラルで少しだけ被害者遺族よりなのかな、とも思えました。
作品内で小夜子が死刑をテーマにした一文の
『…だがしつこいようだが、死刑判決によって遺族が何らかの救いを得られるわけでは決してない。遺族にとって犯人が死ぬのは当たり前のことなのだ。(中略)遺族にしてみれば、犯人の死など「償い」でも何でもない。それは悲しみを乗り越えていくための単なる通過点だ。(中略)ところが、その通過点さえ奪われたら、遺族は一体どうすればいいのか。…』
という下りは切々と訴えてくるような描写だし。
光市の母子殺害事件の一連の裁判あたりがベースになってるのかな。
事件の真相は途中でなんとなく読めてしまったんですが、それでも東野テイストの死刑論議は考えさせられるものもあるし、リーダビリティもありました。
「手紙」が加害者家族の苦しみを描いた小説だとすると、本作は被害者家族の苦悩を描いているともいえると思います。
ちなみに個人的には死刑はどっちでもいいけど、終身刑は設定すべき派です。
それか仇討復活か。
先に例に出した光市の被告人弁護団のような連中は法律家としてどうなのよって感じ。
もちろん少しでも冤罪の可能性のあるのに、執行してしまうのは絶対あってはいけないことなので、そのへん難しいですけどね。
で、他の人の意見で、死刑制度に関して一番納得できるのは呉智英の仇討復活論なんですよねえ。
大昔に朝生でやってた討論でも圧巻の論陣を張って、面白かったです。
復讐権なんて言葉あるって初めて知りました。
ニコニコに動画があったので、そのリンク貼っておきますね(YouTubeにもあったけど、ニコニコの方が動画が2つ残っていて、しっかり観れる)
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