田中芳樹「アルスラーン戦記」完結について

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昨日、近くの書店にいったら田中芳樹の「アルスラーン戦記」の最終巻が発売日より1日早く出てたので購入し、一晩で読了しました。

この巻「だけ」の感想としては正直、ガッカリ。

今まで大切に温めていたはずの設定やキャラを台無しにしてしまうやっつけ仕事のような終わり方。

前々巻あたりからこのペースで本当に全16巻で収束させれるか心配していましたが、かなり無理やり詰め込んで「とりあえず終わらせた」ってだけのようになってしまっていました。

同じ作者の「銀河英雄伝説」と同様に高校時代にハマり、受験勉強の合間に読みふけりだしたのはもう30年も前のこと。

90年代後半からは何年も続刊が出ないのが当たり前となってしまいましたが、それでも新刊が出るたびに世界観や魅力的なキャラに胸を躍らせながら読んだ身としては、ここへきてあまりにも拙速すぎる展開とかいろいろ雑すぎる描写が残念でなりません。

アルスラーン一党が王都を奪還するまでの第一部は本当に神がかりの面白さで歴史ファンタジーの最高傑作といってもいいほどなのに、第二部後半で蛇王ザッハークとの戦いがメインになってからは収束つけれなくて、かなりグダグダになっていったのが返す返すも惜しかった。

本当に第一部と同じ作者が書いているとは思えないくらい。

タイタニア」も全く同じような感じになってしまっていましたが、間が空きすぎて、どちらも作者のモチベーションが下がってしまい、それが作品のクオリティにも影響した感が強かったです。

筆力ってこれほど衰えるものなのかと疑いたくなるほど歳月の残酷さを感じました。

こんなことなら魔道士やら蛇王の設定とか最初から必要なかったんじゃないかと思いたくなります。

もっともそれだと近隣諸国との争いだけとなり、ナルサスの外交戦術が無双して抑揚ない物語になってしまうんでしょうが(;^ω^)

エピローグにはこの物語を新刊を読むたびに30年間ワクワクして楽しんでいた自分の姿も走馬燈のように脳裏にめぐってグッときました。

ちょうどいろいろ思い悩んだ青春時代と重なる歳月でもあったからかもしれないですけど。

新刊の出る間隔が空きまくりだったとはいえ、これだけ長い年月自分を楽しませてくれた作品は今までもないし、これからもないだろうと思います。

このシリーズを途中で読まなくなるなんてことは考えもしなかったし、大人になって新刊を読むときもわくわく感は少年時代と変わらなかったですから。

登場人物たちはそのへんの知人よりはよほど長いつきあいなので、終わってしまった喪失感も他の作品より大きいです。

結末だけは竜頭蛇尾のような物語になってしまいましたが、緻密な世界観の設定やキャラ造形、ウィットに富んだ会話のやりとりなど、この作者しか描けない魅力に色褪せないものがあるのもまた事実ですしね。

あれほど続きが読みたくて、新刊が待ち遠しくて、ラストがどうなるか知りたくてたまらなかったのに、今はもう続きを読めない寂しさの方が勝ってるから不思議なもんです。

それだけにこれほど拙速に終わらせるよりは巻数を増やしてもいいので、きっちり「描き切って」大団円を迎えてほしかったという思いも禁じえないですけどね。

全16巻とはいえ第1巻刊行当初から読んでる人間にとっては30年分の思い入れがありますから。

いくら本人ではないとはいえ、こんだけ長い間読んでいれば、この物語を書き始めていた当初に作者が想定していたラストは絶対にこんなんじゃないことくらいは分かります。

昔の田中作品は先にも書いたように緻密に構成された世界観の中でキャラのたった登場人物たちが(パターンはどの作品も似てるのが出てくるけど)智謀を競い合うところが他のラノベと一線を画してて魅力的だったのに、タイタニアもアル戦もラストは過去の設定をちゃぶ台ひっくり返したみたいにぶち壊し。

蛇王の設定が収拾つかなくなったのはまだしも、それをせっかく倒したのに生き残った連中がパルスを見捨てるって意味が分からない。

途中何年間があいても新刊が出れば買い続けて、長年見守ってきたのに、こんなやっつけ仕事みたいに決着のつけかた見せられたら頭にくるのが当然だと思う。

こちとら今更あと数年待つことくらいなんてことないのに。

それほど腑に落ちないというかモヤモヤした感じを抱えざるをえない最終巻でした。

とりあえず完結まで読めたってことではそうでないよりは良かったと思うことにしないといけないのかな。

この手の本の感想は今までほとんど記事にしてないけど、30年の歳月を考えて妙に感慨深くなってしまったのと、このモヤモヤ感を少し整理したい思いもあってブログに書いちゃいました。

初期からの登場人物たちには「30年間本当にワクワクさせてくれてありがとう」と素直に思えるし、作者にもラスト以外はこんな素敵な世界観を作って、長い間楽しませてくれたことに感謝したいです。